20年前にアメコミで『シン・ゴジラ』はすでに存在した?:書評『ザ・ビッグガイ&ラスティ・ザ・ボーイロボット』

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ネタバレ感想です。

キャッチコピーは妥当か?

私は知らなかったのですが、その筋では結構有名なアメコミだそうです。ちょっとやりすぎでキモちわるくて子供が見たらトラウマになりそうな絵柄です。いわゆるカルトコミックってやつですね。今回、2017年5月25日、目出度く邦訳出版されたということをアマゾンのお勧めから知って、プレビューでの絵の精緻さと、原作がフランクミラーなら期待できる!ということで購入しました。

そのアマゾンの商品紹介なのですが、以下のように書いてあります。

シンの大怪獣&ロボットバトル、日本襲来!!!

アメリカ・コミック界を代表するアーティスト、
フランク・ミラーとジェフ・ダロウによる
シンの大怪獣&ロボットアクションコミック
『ザ・ビッグガイ&ラスティ・ザ・ボーイロボット』が遂に邦訳化!

え?『シン・ゴジラ』ですか?

まーた、話題の何かに乗っかろうとして。節操ないなー。というか流石に5月末になってシン・ゴジラを絡めてくるのは、遅くないか?ブルーレイ出たの2か月前やで。なんて思っていたのですが、商品が届いてみれば、なんとブックカバーにまで同じ宣伝文句がありました。おいおいマジかよ、帯じゃなくてカバー本体ってことは、一時的な流行でなくてずっとこれで行くってこと?と一瞬ひいてしまったのですが、読んでみれば、これが想像以上にシン・ゴジラしてました。

というかズバリ、これはアメリカ版の『シン・ゴジラ』です。かるく検索した限りでは、両者の類似性について言及している記事はまだ無いようでした。なので、今回はそこらへんに着目して記事を書いてみます。

 

ということで、ビッグガイ&ラスティについてネタバレで語りますが、必然的に『シン・ゴジラ』のネタバレにもなります。ご留意ください。この記事に興味があって、かつ『シン・ゴジラ』をまだ観てないという人も少数派な気もしますが、一応。

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これはアメリカ版の『シン・ゴジラ』だ

はい。タイトルのままです。日本で庵野秀明さんが作った『シン・ゴジラ』ですが、同じコンセプトのモンスターが出てきて、それに対応するという物語をアメリカで作ったらこうなるでしょ、というまさにそんな感じなのです。日本の『シン・ゴジラ』が表なら、こちらは裏って感じ。まあ、時系列としてはフランクミラーの方が20年も早いのですが。

庵野さんはビッグガイ読んだことあるのかなー。職業柄、見てると思うんだけどなー。パクったとかそういうのではないと思うけど、インスパイアは受けたというか、これを見た上で、それを超えるビジュアルを作ろうとしたんだろうなーと、個人的には思います。そのくらい似てます。では似ているポイントを挙げていきます。

 

モンスターがめちゃめちゃ強い

とにかくモンスターがめちゃめちゃ強いです。顔や容姿はアメリカらしくイグアナの延長ぽいですけど、手足は太く力強いです。身体はバカみたいにデカイ。自衛隊の攻撃は全く効きません。そして熱戦を吐くと直撃箇所は激しく爆発して引き裂かれます。『シン・ゴジラ』でも圧倒的な強さを見せていましたが、それとほぼ同じ感覚です。

主人公の1人であるラスティは日本の最新鋭の科学技術が生み出した少年ロボット。容姿から鉄腕アトムのオマージュであることは明白です。まだ試作段階だそうですが、開始数ページで決定的に敗北してしまった自衛隊に代わり、小さな両肩に日本の期待を背負って立ち向かいます。が、いとも簡単にやられてしまいます。(※ちょっとバカにしてる感じはある)

政府関係者からの連絡を受けてアメリカから駆けつけるビッグガイは、まあ要するに鉄人28号なんですけど、こちらはまあまあ善戦しますが、やはりモンスターを倒すのはどう考えても厳しい、という状況になります。

 

自己増殖機能でどんどん増える

このモンスターは体液が人間を取り込みながら(!)小型のモンスターになって、どんどん増殖します。この絵が気持ち悪くて、おどろどろしくて、もうホラーでしかない。アメリカはこういう人間大のモンスターが大量に襲ってくるのが好きなんでしょうね。ジュラシックパークラプターとか、98年エメリッヒ版ゴジラとか。

実は『シン・ゴジラ』との類似性でいうと、こちらの方が大きいかもしれないです。映画本編では大幅にカットされてしまいましたが、『シン・ゴジラ』でもゴジラ細胞から小型のゴジラが鼠算式に自己増殖するくだりが出てきます。ブルーレイの特典映像にも出てきますし、それ以上に書籍『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』で大量の資料を見ることができます。庵野監督が意図した「これまでと違うゴジラを作る」という部分では、まさにこの部分が骨子になっていたと思います。(※結果的に東宝からNGが出たので控え目な表現になったが)

 

見た目が気持ち悪い(褒め言葉)

上記の通りすごいスピードで自己増殖することもあり、なんか出来かけの状態で歩き回る、異形の怪物って感じが、すごくグロテスクで気持ち悪いです。巨大なモンスター本体も驚異的なスピードで成長(というか細胞分裂)するのですが、1コマ目はパーツが水槽の中で渾然としていて、とても不気味です。ちなみに戦闘中盤で頭部にミサイルが直撃した後は、顔の半分が欠けた状態で動き回ります。

異形の怪物にしたかったのは、まさに『シン・ゴジラ』もそうですね。ポスターイメージの第4形態は血肉が剥き出しで不気味ですし、自己増殖中の小型ゴジラ細胞はよりストレートに相当気持ち悪いです。

 

言語:一見ちがうように見えるが実は?

このモンスターとゴジラの最大のちがいは?と問われれば多くの人が「このモンスターは喋る」と答えると思います。ここまでずっと同じような身体的特徴を有し、同じような絶望感を与えてきた両者は、共に「神」のような存在として描かれていますが、話すという部分については逆の態度をとります。モンスターは自分が神であるという自覚を持ち、それを言語として表出することで、明確な敵意と殺意をこちらに伝えてきます。対して『シン・ゴジラ』のゴジラは、言葉を発しないのは愚か、全くの無表情なので何を考えているのかさっぱり分かりません。

しかし、これも両者が、アメリカと日本のそれぞれの言語または国民性を反映しているからだ、とレベルを1段階上に引き上げて捉えれば、実は同じことの表裏の姿だと言えるかもしれません。英語というのは非常にシンプルで、自分の意思がはっきりと分かる構造になっています。なので英語を喋る限り、必然的に自分の意思をはっきり示すようになります。対して、日本語は世界でも稀に見る曖昧な言語です。何を考えているのかよく分からない、とは世界から日本人に対してよく指摘されるポイントです。おそらく英語圏と日本語圏では、それぞれが信仰する神の態度も、それぞれの言語を反映しているのだと思います。なのでモンスターが喋り、ゴジラが語らないのは、一見ちがうように見えるが実は同じなのです。

 

特撮を意識した構図

東京(新宿?)の街並みを背景に、巨大なモンスターが君臨するビジュアルは、まさに怪獣映画!カット割りとか、構図も、かなり日本の怪獣特撮を意識している気がします。非常にきめ細かく描かれた、ビル、看板、電柱、自動車。絵柄を眺めているだけで楽しいです。

 

モンスター討伐の鍵を握るのは日本の●●!

ネタバレ宣言しつつも見出しでは伏字にしてしまった(笑)。

モンスターを倒す鍵になったのは、、、地下鉄でした! 『シン・ゴジラ』において映画館で我々オジサンを歓喜の興奮に導いてくれた、あの「無人在来線爆弾」の絵がアメコミでも見られるとは!しかもこちらではその使い方がもっと現実的でした(※爆薬を準備する時間がなかったんだから当たり前ではあるが)。

戦いの終盤、モンスターに踏み潰されたビッグガイ。圧倒的な絶望。しかし地下鉄構内に落ちたおかげでスクラップにならずに済みます。そこで彼が見つけたのは地下鉄車両。そこから乗客を避難させてから、彼は自身に地下鉄を連結します。そして、そいつを使ってモンスターを捕獲して、そのまま成層圏まで連れて行くのです。

用途こそ違えど、ビルの街並みを俯瞰して、巨大なモンスターの周りに地下鉄車両が巻きつく構図は、まさに『シン・ゴジラ』の東京駅で歌舞伎の紙テープのごとく飛び交った無人在来線爆弾と同じです。個人的にはここが一番のクライマックスでした。

そしてミサイルが直撃しても駆除できない対象なら、捕獲して排除すれば良いという発想の転換。そうか、このまま宇宙空間に放り投げてジ・エンドだな。エクセレント!そう思っていたのですが、まさかの次の展開が待っていました。

 

でも最後の頼みの綱はもちろん●●!!

最後に出てきたのは、お決まりの最終兵器。「人類の叡智の炎」たる原子爆弾でした。

核兵器の直撃、数百万度の熱量に耐えられる生物は存在しない。確実に駆逐するなら、核攻撃は正しい判断だ。(『シン・ゴジラ』より)

はーそうか。まあアメリカの作る話だから仕方ないかー。まあそういうもんか。

でも本当に完全に燃え尽きるの?殲滅できるもんなの?ちょっとでも残ってたら太平洋の海中深くであらゆる生物と融合して、今度こそ全く手に負えないレベルに巨大化して襲ってくるかもしれないのよ?宇宙空間に放り投げて太陽系から外に出しちまう方が絶対に安全でしょ。そこから大気圏に再突入する軌道に入ることなんて確率的に有り得ないだろうし。なんでわざわざ地表に戻して爆破したがるんだ?そこらへんが雑だよなーアメリカって。

ひるがえって日本の『シン・ゴジラ』では、サラリーマン(正確には公務員)が不眠不休で働いて熱核兵器の使用を回避する、という話でした。これこそがアメリカと日本のちがい。まあ逆にそれがちゃんと浮き彫りになって良かったわ(謎)。 

あ、でもこのラストシーンで1点評価するなら、私は邦訳版で読んだので原作では何と書いてあるのか未確認ですが、該当部分のナレーションには「原子爆弾」とは書いておらず「モンスターは原子へと戻っていった」とだけ書いてあり、そこらへんはフランクミラー節というか、余韻を残す感じが出ていて良いなと思いました。

 

総評

ということで、終わり方だけはちょっと気になりましたが、総じて言えば、圧倒的に強くて絶望しか感じさせないモンスターといい、そこかしこで出てくるフランクミラー節の何か深さを感じさせる雰囲気といい、ジェフダロウの気持ち悪い絵柄といい、ディティールまで描かれた東京(新宿ぽい)の街並みとか、どれも抜群に尖っていて面白くて、私には大満足の内容でした。よろしければ、一度ご覧になってはいかがでしょうか。

 

了。