るろうに剣心 最終章 The Final(感想:途中からネタバレ)

すばらしい作品だった。脚本にも演出にも演技にも、過去作と俳優自身のキャリアで、この10年間に培ってきた全てが見事に投入された傑作だ。

注意)前半はネタバレなし、後半はネタバレありになります。物語の内容に影響しない部分はネタバレなしと見なします。

ネタバレなし感想

過去作って見たほうがいいの?

見なくても大丈夫ですが、見ておいたほうが良いです。

一部で回想シーンが出てくるので、過去作を見ておいたほうが「あの時にあの人にこんなこと言われてたな」と色々思い出せるのでエモーショナルな気分に浸れます。

ただし未見でも「これまでにお世話になった人達のことを思い出してるのかな」くらい分かれば、まあストーリーの理解には支障がないレベルなので、過去作を視聴する時間が取れないくらいならさっさと本作を映画館に見に行った方が良いでしょう。映画館で見た方がずっと映えるタイプの作品なので。

また別の順番として、本作をまず見てから、過去作を第1作から見る、というスタイルでも良いと思います。ただし新作のあとだと第1作の殺陣はちょっと地味に見えるかもしれません。ただし一部の役者が初々しくて可愛さ倍増で見えるかもしれません。笑

殺陣の進化

私は直近1ヶ月でリバイバル上映を利用して過去3作品を初鑑賞したのでよく分かったが、本作『最終章 The Final』は過去作品の制作と公開を通じて得てきた経験と知見を、一挙に総動員して見事に結晶させたような作品だった。

まず最大の売りである殺陣。間違いなく過去最高の出来である。るろ剣は2012年公開の第1作から突出した殺陣を宣伝文句に使っていたと記憶している。見た目だけでも剣心っぽい佐藤健が画面上を猛スピードで走り抜けながら敵を次々と日本刀でなぎ倒していくのはそれだけで革新的だったが、それは2014年公開の第2、3作でどんどんバリエーションを増やして進化していった。さすがにもう次はないだろうと思っていたが、いやいや乗り越えてきた。

今回の第4作ではアクションの内容は基本的に同じながらも、過去作の特に優れたカット割りや画角を厳選して組み合わせることでスピード感と劇画感を大幅にアップしている。もちろん本人がインタビューで言及していたように佐藤健の技術もアップしているかもしれないが、それ以上に見せ方の改善が大きいと感じた。冒頭シーンの新田真剣佑の動きは予告編よりも早回しにして速度を上げたカットを挟んだり、逆に佐藤健のシーンではスローモーションを差し込んだりと、とにかくメリハリが効いているので体感速度が2割くらいアップしている。

そして時には「同時に画面に映る人数を増やす」という最も単純な技法で迫力をアップするというパワープレイも使う。要するに数の暴力。これは文章にすると簡単に見えるが、実現するには大変に高度な技術と資本を要するとても贅沢な作りである。あの人数があの速度で動いたら些細なミスで怪我に繋がってしまうよ。偽物をはいえカタナを持ってるんだから。

これは過去作でずっと「大人数を一度に相手にする剣客」というシチュエーションを撮り続けたことで監督はじめスタッフの技量が成長したことの証である。そこにクリエイター魂を感じて、映像的な快楽はより強靭なものになる。

衣装のリアリティ追求

個人的に過去作でやりすぎと思っていた、女性キャラの着物が豪華すぎる点が適度にチューニングされてかなり映画に集中しやすくなったと感じた。というのも神谷薫と高荷恵の反物と化粧帯がいちいち華麗すぎたのよ、前作までは。漫画原作なのだからあまり目くじらを立てる必要はないと考えながらも、一介の町娘や薬剤師がなぜあんな江戸城のお姫様のような身なりなのだと実は私はずっと気になっていた。笑

今回の第4作ではこれまでと変わらず華やかな色でありながら、シンプルな生地が使われており、無理ない程度のディフォルメだと容易に受け止めて、映画に集中することができた。

脚本のソリッド化

個人的に過去作でやりすぎと思っていた、左之助のリアクションがオーバーすぎる点が、適度にチューニングされてかなり映画に集中しやすくなったと感じた。熱い性格なのは分かるけど、そこまで大騒ぎしたり迷惑かけるようなことするかね?というツッコミが消えた。笑

ただ要所々々でささやかなギャグを挟んでくれる姿勢は変わらずで、シリアスになりがちな本作でも安心して観れた。

俳優の成長

まずは生物学的に成長した明神弥彦役の大西利空。まあれだけルックスが変わるとそれだけで見ていて楽しいよね。笑

次に先述の通り殺陣が進化し続ける緋村剣心役の佐藤健。本作ではかなり暗い表情の演技を要求されており、30歳を過ぎたからこそ出せる味なのかなと思う。漫画アニメ原作なのに本作ではほとんど笑わない。これはかなり挑戦的なアプローチだと思う。

そして何より特筆すべきは神谷薫役の武井咲である。個人的には彼女が出演者の中で一番成長していると感じた。武井咲は実写版るろ剣シリーズの第1作でいくつか新人賞を受賞している。映画の出演経験に乏しかった当時は初々しくて真っ直ぐで体当たりで挑むという武器のみでこのキャラを演じていた部分があったと思う。そもそも少年漫画のヒロインなので、演出的にもそれで十分だった。難しい演技が求められる高荷恵役は当時からすでに演技派として広く認知されていた蒼井優が担っていた。

しかし第4作にあたって20代後半に差し掛かった武井はもうあの頃の少女とは違う。本作の中盤で蒼井との会話シーンがあるのだが、そこで歴戦の大女優と互角に渡り合う武井はもう完全に女優であった。人が10代から20代を駆け抜けて30代に向かっていくときの一番成長する姿を、一つの映画シリーズで観られてとても感動した。武井についてはラストシーンでも素晴らしい演技をしているので是非しっかり鑑賞されたい。

以下はネタバレになります。

ネタバレ感想

藤田五郎の部下にはなりたくないw

過去作全ておいて藤田に命令されて攻めかかる彼らは、本作でも相変わらず噛ませ犬として大いに機能し、悪者にバッタバッタ斬られて気の毒であった。藤田はあんなに沢山の部下を殺しておいてよく平気なものだ。笑

雪代縁の時にしたって呑気に煙草なんか吸ってないで最初から自分で職質したれや。笑(しかも藤田は先頭で列車に乗り込んだのにわざわざ後ろの部下と順番を交代して自分は下がってる。たぶん満州の言葉が話せなかったからかなぁ。笑)

スペシャル映像の含み笑いの意味!

第3作のリバイバル上映で冒頭にスペシャル映像が付いていた。そこで佐藤健は「殺陣としては、神木隆之介が演じる宗次郎との決闘シーンが本作(伝説の最期編)の見所です。あそこは一番力を入れました。前作(京都大火編)での宗次郎との決闘も見所だったがそれ以上のものになっています」と話した上で、隣に座っている大友監督と目を合わせて「あれ大変でしたよねースゴイことやったと思いますよホントに」と談笑していたのだが、、、

今回の第4作でそれよりもスゴイ殺陣を二人でやっとるやないけー!と私は映画館で爆笑してしまった。先のスペシャル映像で佐藤が監督に目配せした意味が分かったよね。絶対に「ま、俺ら、次回作ではもっとスゴイことやったんですけどねー」って思ってるニヤニヤだわ、あれは。笑

狭い部屋に詰め込まれた100人程度の郎党を相手に、剣心と宗次郎の二人が背中あわせてグルグル回転しながら、それはもう矢継ぎ早に斬り捨てていく(殴り払っていく)場面なのだが、エキストラも含めて演者の動きがもうトンデモないことになっているのに、カメラをクレーンで吊って俯瞰で撮影しているので「その場で何が起きているのか」という視認性がとても高く、それゆえに臨場感があり大迫力の場面だった。このシーンは予告編にも無かったと思う。

最後に笑顔を見せるまでは良かったのに!

剣心と薫のラストシーンは剣心の妻であった雪代巴の墓前。「何を念じたの?」という薫の問いに剣心は背中を向けたままで「ありがとう。すまなかった。それと、、、さようなら」と答えた。そして薫の方を振り返って剣心はこの映画で初めて笑う。なんて良いシーンなんだ!感動だぜ。

しかし、そのあとの行動で私は正直少しだけ醒めてしまった。剣心は薫に手を差し出して、二人は手をつないで向こうへ歩いて行ったのだ。

え?

そこで手を、、、つなぐんですか?

ああああ、せっかくここまで硬派に明治剣客浪漫譚で貫いてきたのに!ここに来て一気に表現(というか価値観)が現代になってしまった!

私は原作コミック未読なので知らないが、まあ原作が手をつないでいるなら、映画でもつながなきゃダメだろうね、そりゃ。

でも正直、原作を読まずに映画だけを見てきた私には、映画単体で考えると、最後に剣心が薫と手をつなぐのはちょっとやりすぎに感じたかな。

(なんだろうスターウォーズスカイウォーカーの夜明けの最後にレイとカイロレンが●●した時にも同じような感情を覚えたんだよな〜)

もちろんこの「手をつなぐ」という演出は二人の関係が一歩前進したことを示しているのは理解できる。第1作で「ただいまでござる」の時も、赤べこで牛鍋をつついてる時も、二人が身体的に触れ合うことはなかった。また本作で薫と剣心の距離が縮まる重要なシーン、傘を渡す時にも薫は先に歩き出す剣心のあとをついて歩くだけだった。しかしラストシーンで遂に二人は手をつないだ。これらのショットはほぼ同じ構図とテンポ感で撮られており、映画技法的に対構造をなしているのも分かる。

でもさ、「さようなら」を言う前の佐藤健のほんの少しの沈黙と、その言葉を聞いた武井咲の表情の変化で、察するじゃん。二人ともそれだけで十分伝わる良い演技をしてたじゃん。

映画評論なんかでもよく「作り手はこれで観客に伝わるのか不安になるとモノローグを入れたくなるが、それが余計な一手になることが多い」みたいな話を聞くが、この「手をつなぐ」という行動もそれに匹敵し得るかなり「安牌(アンパイ)な」表現手法だったと思う。

私はただ、そこまでやらなくても二人の演技で伝わったよ、という感想を遺しておきたくて。まあ、でも想定してる観客ターゲット層はあくまで21世紀以降の少年少女なのだろうし、いくら時代劇とはいえ現代の観客に伝えるにはこうした直接的な表現は避けられないところではあるか。

もし私が監督だったら大変に悩むと思う。ここで意気地にクリエイター精神を発揮して思い切ってカットではなく、これはアクション大作なのだから心情表現については多少分かり易すぎるくらいの方がベターだという判断にもなりそう。だって美しい話ですよ、これまで剣を握ってきた手が今は大切な人の手を握っているなんて。ましてや原作で手をつないでいるなら尚更の事。

ただね、それでも私は実はまだ諦めていない。ラストショットの二人は着物の袖の形も相まって、手をつないでいるようにも、手をつないでいないようにも見えるんだよね。笑

だから、もしかしたら「剣心が手を差し伸べてそれを薫が握るカット」は二人の心象を「あくまで映像としては目に見える形で表現しただけ」で、実際には二人は手をつないでおらず、いかにも当時の若者らしく剣心の三歩後ろを薫は歩いていくのでした。ただし二人の心は今はつながっているけどね。おしまい。という監督の隠されたメッセージなのかもしれない、、とか思ったりした。

※現代劇ならもちろん手つなぎでも抱きしめるでもキスでもその先でもいいんだけど、これ明治の話じゃん、と言ってるだけです。

 

新田真剣佑のビジュアル

前作の伊勢谷友介に匹敵する体作り!顔が小さすぎて肩幅すごく広く見えた!

土屋太鳳の飛び回し蹴り

彼女は体育大学でしたよね?今回のアクション全部本人なのかしら。すごいね。

 

以上。